評価

「嫌いなものを描く」ことによって嫌いなものを克服していくという俺なりの作品への答えだった。

自分から生み出せば怖くない。自信が湧いてくる。

美術科の作品は皆展示会に出されたくさんの人に見られた。妙な顔をしながらも自分の絵に立ち止まってくれる人がいた事に感動した。

その展示会で一番を取ったのはここちゃんだった。

女の子とひまわりを描いたもので、華やかと言うには程遠くどことなく不気味ではあったがデッサンや先生が求めている基礎の部分は素晴らしい出来であった。

お互いの作品について話した時に自分の作品が素敵だと言ってくれた。

こんな自分の醜いものを叩きつけたような絵を素敵だなんて真逆の褒め言葉だ。

でも嬉しかった。そう言われたのは初めてだったから

ここちゃんの作品について教えてもらうと女の子は妹だそうで、妹がいたことは初めて知った。

話によると妹は障害者で自分は妹に思ってもないような酷いことばかり言っているが、本当は好きだという気持ちを描いたそうだ。

割と泣けるエピソードだった。

自分の中の醜さをぶつけたことに共通点を感じたが故に素敵だといってくれたのかはよくわからないが、

絵を描いたらまた見せてと一言残して去っていった。

静かな復讐

2年後期になるとここちゃんと席が隣になりよく喋る仲になった。2年の締めくくりとして各科で大きな作品を1人1つ作らねばならず、2人の講師に見せて案が通らねば作業に入れないものだった。皆案にダメ出しを喰らいまくり好きなものがかけずにいた。俺は描きたいものがなく、適当に家の猫を描こうと思ったが案のラフの時点で形が狂ってるなど的外れなことばかり言われサボった。

サボり続けると進級できないことを脅され渋々顔を出した。周りは作業に取り掛かっていた、特にダメ出しされたものが変わったわけでもなく時間がたってokをもらったようなもので講師は商売なんだと思った。

俺も同じように初期の案でいいからと描くことになった。周りはサボり続けた俺に作業のストレスを晴らすように蔑んだ。

締切の前日になり明日は合評があるが全く完成していなかった俺は画面を塗りつぶし狂ったように今の状況を描いた。それは周りに不気味な眼を付けたキノコを11本と真ん中に猫を置いた構成でその不気味な眼はすべて猫に向いている。配色もサイケデリックな気持ち悪いものだ。言わずもがなキノコはデザインの女子、猫は俺だ。俺はキノコが大嫌いだからこの女子達をキノコに例えたのだろう。俺はこの絵を描いている時芸術を心底楽しんでいた。

一夜にして化けたサイケな絵を見て自分がこんなものを生み出したのかと少し怖くなったが生み出した自分に自信が湧いた。そしてこれを明日奴らに見せると思うと楽しみで仕方がなかった。そして合評で俺の絵を皆に紹介した。絵の理由は言わなかったが描きたいものが描けたと説明し講師の評価を仰いだ。講師は内容を読み取ったのか作品の内容については触れなかったが、色使いや構成については褒めてくれた。11人の女子達は変な顔をしていて描いたキノコにそっくりだった。

再始動

2年生が始まる。がクラスは変わらない。担任も同じ。

なんの新鮮味もないまま敷かれたレールをひとつ進んだ。

2年になると俺ら美術科の生徒は専攻を選ぶことになっており、デザイン、日本画、油絵の3つからひとつ選んで所属することになる。美術科の男子の俺とnとhの3人はしょっちゅう部活をサボりながら遊び、専攻は先生が勝手に決め皆バラバラになった。俺はデザイン科、nは油絵、hは日本画だ。そしてここちゃんは日本画だった。デザイン科は先輩の3年が女子6人、2年は俺と5人の女子の6人合わせて12人のデザイン教室でこれから絵を描いて行くことになった。

男子は俺だけだ。nもhも同じく独りだった。

それぞれの科には非常勤講師が一人ついていることになっており、デザイン科の講師は厳しいおばさんで

先輩も皆恐れながらデザインを考えているようだ。

俺はひとりだけ男の空間は非常に苦しいし、課題の度に案を100個要求され、面倒くさくサボることが多かった。サボった分だけ怒られたが真面目にやった時は評価された。サボっているが評価されている自分が気に入らなく思ったのかデザイン科の女子は皆俺の事を嫌った。

女子達らは自分の評価を下げるようなことを講師に言ったり、いわばいじめのようなものをしてきた。

俺は芸術をやってる奴で本当に芸術を楽しんでる奴は1割もいないと思った。ましてやこの科にはいない。芸術は自分そのものでそれを描く。故に自分を評価してもらいたいという醜いプライドの塊達だ。もちろん俺もその一人に過ぎない。くだらないと思いながら一匹狼を続ける。そんな自分が好きだった。

非常勤講師は俺の事を認めてくれる一面もあったが常勤の講師はあまり評価してくれなかった。

ここちゃんは音楽科の子と仲良くなり、日本画ではhが場を和ませ割と楽しくやっていそうだった。

今の俺にはそれだけでよかった。

170817

今日まで色んな気持ちを交錯させてあなたのことを恨んだり、諦められなかったり、忘れようとしたり色んな感情を叩き出してどうしてもどうしようもなくあなたが好きだっていう気持ちがこんなにも簡単な答えがぴったりと自分にはまるまで1年かかった自分が可笑しくて仕方がないな

1年前はあんなに一緒にいたのに久しぶりにあったぐらいで自己紹介の順番が回ってきたような気持ちになって俺まだ諦めなくてよかったって生きててよかったと思えた

初めてのデートみたいに緊張して心臓の音が抑えられなくてまだこんなにも好きなんだ、ああ、あなたしか見えてなかったんだって

会った途端に全部忘れてしまったけど落ち着くといくつもいくつも出てくるこの気持ちを今あなたに伝えたくてジッとしていられないこの気持ちを次会うときまでとっておくことがとってもむず痒いです胸が苦しいですあなたともっと

もっと一緒にいたいよ

涙が止まらないよ

 

再会

あなたと別れてから1年ぶりに会った。

あなたは何も変わってなくて安心した。

雰囲気のある喫茶店に行きあなたはかき氷頼んだ。久しぶり過ぎてお互い目が合わせられなかったが、あの頃のようなふざけ話もできるぐらいまですぐ打ち解け合えた。

一口くれたかき氷甘くて1年前にくれたパフェの一口を思い出させた。

他愛もない話して笑い合ったこの時間が空白の1年を少し修復した。

あなたは今同居している人がいると言った。

知っていたがあなたの口から言われるとまた違ったものがあった。苦しかった。

少しでもあなたに触れたいと思ってた筈なのに同居人が俺のことを知らなくても俺はそんな卑怯なことは出来なかった。俺がされたくない様に俺がしなかった。でも、少し触れたかった。

特になにもなかった1日だけどまた再会する約束をした。

また会える日が楽しみだ。

 

ぼーっとして窓を見続けていたらあの頃の部室の窓を見ている時と重なった。

絵を描きながらつまらなそうに見ていたあの頃の窓にはあなたが手を振ってくれてた。

お互い会いたい気持ちを抑えて絵に打ち込んでたあの頃。

部活が終わり、夜の学校の階段で抱き合ってたあの頃が。

あの頃の鮮明な記憶が。

今では少し霞んでて、

渇かないようにいつも涙で濡らして。

あなたと1/3

いつも通り学校に行くとあなたがいた。
まるで1学期の俺を見てるようだ。
みんなあなたを避けて通る教室。
「俺だけは味方だぞ」と心の中で呟いた。
やがて秋も終わり冬になり、部活では自画像が課題になった。みんな自分の顔を見ながら絵を描いている、それに習って俺も自分の顔を鏡でみた。
俺の目はあなたに似て光がなかった。
目を見開いてとりあえず眼球に蛍光灯の光を入れた。
自分の顔を描くなんて恥ずかしくて集中できなかった。ひたすら周りをキョロキョロしていた。
横を見ると席をひとつ挟んであなたが鏡をじっと見ていた。
俺は鏡に映るあなたの顔を遠くから覗き込んだ。
頬には涙が流れていた。
先生が心配してあなたの背中を擦りだした。
暫くすると落ち着いたようで自分を描きだした。
俺もとりあえず輪郭だけでもと鉛筆を動かした途端に鉛筆の芯が折れたのでやる気が失せた。
定時までぼーっとしていたが暇なので、勇気を出してあなたに話しかけてみた。
「自分の顔なんで描きたくないよね」
「…うん」
涙でカピカピになった唇で小さく返事をした。
たぶんあなたがこうなってから話しかけたのは俺が初めてかもしれない。
それからはバスの待ち時間に少し学校のことを話したりするような日々が続いた。俺と話す時だけ少し笑顔をくれるようになった。俺だけに見せる笑顔に特別感を感じずにはいられなかった。出来ればだが学校でいつも笑っていて欲しかったが、いきなりみんなと話せるような雰囲気でもなかった。
少しずつだが元気を取り戻しているあなたのことをいつも見ている日々がなんとなくだが充実していたように思えた。
学校だけでなくLINEでも会話するようになり、朝は「おはよう」夜は「おやすみ」と言い合う習慣ができた。
それだけだったがその挨拶に俺も元気をもらっていた。
そんな感じで俺とあなたの高校1年が終わった